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2-37 明日香の不在の夜 3

last update Last Updated: 2025-03-13 21:37:00

「ほらアカリ。動いちゃダメよ、メイクが出来ないでしょ?」

朱莉は今、部屋を訪れてきたエミに化粧をされていた。

「で、でも……こんな姿。は、恥ずかしくて……」

朱莉は消え入りそうな声で俯くと、エミに顔を上げられた。

「コラ、下向かないの。メイクが出来ないでしょう?」

それから約20分後――

「はい、出来た。完成~! あっちに行って鏡を見てごらんなさい?」

無理矢理エミに手を引かれ、朱莉は全身が映る鏡の前に立たされて息を飲んだ。

「こ……これが私……?」

大きな花柄のブルーのノースリーブのワンピースに、緩く巻き上げた髪、そしてアイシャドウにグロスを塗った顔はとても自分とは思えなかった。

「ほら~もともと貴女は美人だったけど、3割増し位美人になったわ。さ、それじゃ行くわよ」

朱莉の細い腕を掴むエミ。

「え? ええ? 行くって……一体何処へ!?」

「勿論! 素敵な大人が行く店よ?」

エミはパチリとウィンクした。

****

「あ、あの……私、こんなお店来るの初めてなんですけど……」

朱莉はエミに耳打ちした。

エミが連れてきたのは高級ショットバーの店であった。客は全て外国人観光客ばかりで、誰もが高級そうな服をみにつけている。

「ほら、アカリ。貴女すごくキュートだから皆に注目されてるわよ?」

「え? そ、そんな……!」

朱莉の顔が真っ赤に染まる。

「さあ、アカリ。何を飲む? ……あ、そうだったわね。英語表記だったから……いいわ、私が適当に頼むからね!」

エミの注文で、あっという間に2人のテーブルは様々なカクテルで埋め尽くされた。

「さあ! ジャンジャン飲んでね!」

エミはグイグイと朱莉にアルコールを進めてくる。素直な朱莉は言われるままにカクテルを飲み続け……とうとうテーブルに突っ伏してしまった。

「ねえねえ。アカリ……大丈夫なの?」

エミが心配そうに朱莉を揺する。

「あ……ハイ。大丈夫ですよ~」

しかしその目はトロンとし、頬は赤く染まっている。

「う~ん……困ったなあ。アカリ、ちょっとだけ電話してくるから、じっとしてるのよ?」

エミはタクシーを手配する為に店の外に出た。

そして朱莉が1人になった所を男性客が近付いて行く……。

その外国人客は舌なめずりをしながらテーブルに突っ伏している朱莉の肩に手を置こうとして、1人の東洋人観光客に止められた。

『お前……その女性に何をしようとし
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